プロフィール:塚原月子 バイスプレジデント カタリスト・ジャパン
ダートマス大学 タック・スクール・オブ・ビジネス 経営学修士課程修了(MBA)東京大学 経済学部卒業
既婚、3児の母。
育児をしつつ、仕事の上でも成功を掴み取ること―これは、私自身も、まだまだチャレンジし続けている最中です。今まで自分が心がけてきたことは、育児のために時間が必要なことと仕事とを、なるべく対立させないことです。私は、独身時代は仕事の虫でした。自分の時間をほぼ100%仕事に投入していたのです。結婚しても、それは大きくは変わらず、夫婦揃って仕事ばかりしていました。でも、最初の子供が生まれてから、状況が大きく変わりました。
幸い、長男はすぐに保育園に入れることができ、比較的早く職場復帰を果たしましたが、子供の送迎の時間や自宅で子供と接する時間はどうしても仕事から離れることになります。
一日24時間のうち、少なくとも6時間くらいは育児のために必要な時間となったのです。もちろん、以前と同じ働き方でうまくいくわけはありません。会社と相談して、パートタイム勤務をさせてもらうことにしましたが、当時24時間臨戦態勢になりがちなビジネスコンサルタントだった私にとって、パートタイム勤務になってもまだチャレンジは続きました。そこで、自分自身の仕事の生産性と、マネジャーとしてチーム全体の仕事のプライオリティ付け、自分のワークスタイルを前提にしたチームとのコミュニケーションの仕方の工夫という点において、大きく改善が迫られることになりました。私はこのことが自分の仕事の腕を上げる意味でとても役にたったと思っています。育児への時間投入の必要性に迫られて、トータルでの時間の使い方がうまくなったと思います。
2人目、3人目の子供が生まれ、一方それまで頼りにしていた両親が歳をとり、逆に自分が目配りをしなければいけない立場になってくると、更に時間の使い方にフレキシビリティとプレディクタビリティが必要になってきました。私の場合は、会社と相談して、一部リモートでも仕事ができるような形でやらせてもらうことになりました。仕事のスタイルは変わるけれども、キャリア上オフトラックにはならないようにしたいという思いに拘り続けて、新しいロールを創りだしてもらったのです。会社側に理解があったという点でとても恵まれていたと思いますが、同時に、私自身が拘る働き方があったからこそ、ある種のイノベーションが生まれたということだとも思います。
育児や介護によって出てくる新しいニーズを、家族全体でプライオリティ付けし、自分のワークスタイルの中に取り込んでいく必要のあることを見極める。それを会社とも共有する。そうすることで、自分にとっても会社にとってもベネフィットがある仕事のやり方を創り出していくことができると良いのではないかと思います。
仕事・家庭両立の方法
仕事面では、時間・場所のフレキシビリティの確保ということが、非常に大きく効きました。基本的には在宅でも良いということにしてもらったのですが、私が拘ったのは完全在宅ではなく「フレキシビリティ」です。ですから、対面でのミーティングをした方が生産性が高いと判断した時はそのようにしましたし、クオリティや生産性が落ちないと判断した時は自宅で作業をしたり電話会議をしたりしました。
時間的にも、短時間しか働きたくないということではなく、家族のために必要な時間帯は確保したいということが重要だったので、例えば、子供たちが寝た後深夜の時間帯は、海外との電話会議や自分自身の作業時間に充てたりしました。やはり時間の観点からもフレキシビリティの確保が重要でした。
家庭面では、2人目、3人目と子供が増えるに従い、やはり夫には相応に育児に参加してもらうようになってきました。夫もビジネスコンサルタントで多忙を極める生活を送っていたのですが、役割分担としては、朝子供を送り出すのはほとんど夫に任せるようにして、私は早朝の時間を仕事に使えるようにしました。一方、夕方から夜にかけての育児は、主に私の分担です。
また、育児以外の家事は、2人ともそれほど得意ではないので、思い切ってアウトソースするようになりました。現在の我が家は、双方の両親は全く依存できる状態ではないので、いざという時の育児のバックアップという意味でも、このアウトソースが効いています。家族でやることと、アウトソースに回す分のバランスは、家族として納得できるように工夫しています。子供達の学びという意味でも、自分達でできる家事は、アウトソースリソースを持っている今も、子供達も含めて自分達の手でもやるようにしています。食事もできるだけ家族で一緒にとることを心がけています。
企業が子供を持つ社員のためにできること
女性男性問わず、様々な家庭的事情(育児・介護等)を抱える全ての社員にも働き続けてもらうことこそ、自社の本質的な利益につながることを理解し、社員にもコミュニケーションしてほしいと思います。
例えば、採用面。多様性を許容できる組織であることを挙証しなければ、有能な人材の確保はますます難しくなると思います。また、営業・マーケティング面。単一的な視点しか持つことのできない組織は、イノベーションから遠ざかると思います。そのような組織は、中長期的にマーケットで生き残ることが難しいでしょう。
それぞれの組織にとって、多様性を許容さらに促進することによるビジネス上本質的な利益が何なのか、きちんと定義付けしてほしいと思います。出産・育児・介護といった様々な家庭的な事情に直面した社員を切り捨てるのは論外ですが、必ずしも安易にオフトラックに進むのが良いわけでもないと思います。社員が、これまでとは異なる働き方をする必要に直面した時に、どういう方向性で考えると、組織・個人双方にとって利益のある働き方の創出につながるのかは、この定義次第だと思います。このような考え方を前提とした組織的なサポート体制を構築したり、リーダーシップ層への教育を行っていくことが、会社にとって求められることだと思います。
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